主演:吉沢亮
出演者:横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、宮澤エマ、中村鴈治郎、田中泯、渡辺謙
プロボクサーの右ストレートくらったら、そらあ鼻血出すわな
極道の家に生まれ、数奇な運命から歌舞伎の狂おしい世界へと足を踏み入れることになった主人公・喜久雄。
吉沢亮さん、あの綺麗な顔をボロボロに腫らしながら、泥を這うように生きていく。
それからの落魄れっぷりがすごい。
地方のホテルの小さな舞台で、舞うが、観客は誰も興味ない。
挙句、控え室もないただの廊下で着替えていると、酔っ払った客に気持ち悪いとボコボコにされる。
地方のホテルでボコボコにされるし
ただの廊下で、ボコボコにされるし
夜になり、安ホテルの屋上、ウイスキーをボトルのままラッパのみしている、中途半端にメイクが落ち、まるでピエロのよう。
バタバタと鳴る風の音が、死を予感させます。
トタン板が揺れる激しい音。寒々しい夜風の音。
赤い襦袢で、ふらふらと、何かに取り憑かれたように舞う喜久雄。
目覚めると、万菊からの呼び出し。
駆けつけると人間国宝の万菊は安アパートで布団の上。 天国に一番近いところにいる人間国宝だ。
ここにゃ美しいものはひとつもないだろう?
踊ってごらん、私にはわかるから。
田中泯さん演じる万菊の、言葉にできない凄まじい佇まい。
布団が擦れるカサッという微かな音。弱り切った、でも鋭すぎる呼吸の音。
喜久雄が舞う姿を、斃れかけの万菊は鋭い目付きで見る。
言葉を多く交わさないからこそ、その瞳の奥にある芸への執念が、観ているこちらの胸にじわりじわりと染み渡ってくる。
一転して舞台は、華やかな大舞台、喜久雄と俊介は、半弥、半二郎半半コンビとして歌舞伎座の舞台に立つ。
俊介を演じる、横浜流星さん。
ライバルであり、友であり、血の繋がらない兄弟。
白塗りの奥で交わされる、お互いを狂わせるような熱い視線。
花道を駆け抜けるときの、豪華な衣装の絹が擦れ合う、あのシャナリという贅沢な音。
そしてそれは頂点で、転げ落ちる。
この作品のすごいところは、幸せな瞬間は小鳥が囀り、その後のシーンは必ず不幸なシーンとなり、三味線と鼓、能管、情念の音になる。
そして場面転換、音は消える。
その組み合わせで、観ている者はどんどん引き込まれていく。
幸せなときの、耳に心地よい軽やかな三味線の音色。
不幸が忍び寄るときの、お腹の底を容赦なくえぐるような、ズシンと重い鼓の地鳴り。
空気を切り裂く、能管のヒィーという鋭い一音。
歌舞伎の伝統の音が、登場人物たちの血の通った泥臭い生き様を、そのまま引き立てている。
すべてを投げ出して舞うし
命を削りながら、舞台に立つし
そして場面転換、すべての音がフッと剥ぎ取られて、完全な無音になる。
音をあえて消すことで、虹色の雲を見るような一瞬の美しさと、さっきまでの情念の残響が、耳の奥にいつまでも心地よく残り続ける。
ラストに向けて、2人で曾根崎心中の舞台。
吉沢亮さんと横浜流星さん、二人の魂のステップ。
舞台の床を烈しく踏み締める、あのドスンという重い足音。
お互いの荒い息遣い。飛び散る汗が床に落ちる音。
そして、すべてを包み込むエンディング。
原摩利彦さんの生み出す、あまりにも美しく静かな旋律。
そこに重なる、King Gnuの井口理さんの、あの透き通ったハスキーな歌声。
主題歌「Luminance」。
作詞の坂本美雨さんの言葉が、祈りのように静かに響く。
ボロボロになりながらも、光の果てを目指した男たちのすべてを称えるような音楽。
映画のための綺麗な劇伴なんかじゃない。
太鼓の地鳴り、息遣い、そして井口さんの歌。
それ自体が、この狂おしい人生の最高の音楽。
最後、あの圧倒的な光のなかに消えていった喜久雄。
彼は本当に、幸せな国宝になれたんだろうか?
音楽・サウンドの詳細レビューを準備中です。
作曲家・印象的なシーン・サウンドトラック情報を近日公開予定。