コンサート映画というジャンルには、前と後がある。 デヴィッド・バーンさんとトーキング・ヘッズが1984年に作った『ストップ・メイキング・センス』が、その「前」を終わらせた。
そして36年後、今度はスパイク・リーさんを監督に迎えて「後」を更新した映画が、この『アメリカン・ユートピア』です。
舞台はブロードウェイのステージ。 12人のミュージシャンが全員裸足、全員が同じ銀灰色のスーツを着て、全員が楽器を持って動き回りながら演奏する。 バンドメンバーとヴォーカルが同じステージ上で舞うライブは、今まで誰もやっていなかったし、デヴィッド・バーンさんじゃなきゃたぶん成立しなかったと思います(当社比)。
マーチングバンド形式というのが、まずすごい。 ロックのライブでは誰もやらない形式です。 けれどそこにロックがあり、ブラジル音楽があり、マーチがあり、ゴスペルがある。 明暗と陰陽を使い分ける照明の中、12人が隊列を組んで動き回る。
中盤、ジャネール・モネイさんの抗議ソング「Hell You Talmbout」をカバーするシーンで、空気が変わります。 本人の許可を得て、不当に命を奪われた黒人の名前を一人ずつ呼びかける曲です。 観ていてしんどい。でも目が離せない。
そして終盤、「Road to Nowhere」が始まる。 1985年のトーキング・ヘッズの名曲が、裸足の12人の行進という新しい形で蘇る瞬間。 行き先のない道を、それでも歌いながら進んでいく。 あのシーンを観て、感情が動かない人はいないと思います(当社比)。
締め括りに「世界中のどこにいても、有権者登録をしてください」と語りかけるデヴィッド・バーンさん。 エンターテインメントでありながら、ちゃんと政治的でもある。 理想郷はあなたから始まる、と本当に思わせてくれる一本です。
1975年にトーキング・ヘッズを結成し、1984年の『ストップ・メイキング・センス』でコンサート映画の概念を変えた。 本作は2018年のソロアルバム『American Utopia』を軸に構築したブロードウェイ公演を映画化したもので、 スパイク・リーが監督として参加。全21曲、全員裸足・同一衣装・移動しながら演奏するという 前例のない形式を生み出した。
脳のシリコンモデルを両手で持ち、ステージ中央に一人で立つデヴィッド・バーン。 「これが脳だ。シナプスが繋がり、やがて失われていく」と語りかける。 そこに一人、また一人とミュージシャンが加わっていく。 静から動へ、独白から演奏へ移行するこのオープニングが、全体のトーンを決める。
ジャネール・モネイさんの抗議ソングを、本人の許可を得てカバー。 不当に命を奪われた黒人の名前を一人ずつ叫ぶ。観客も一緒になって繰り返す。 「Hell You Talmbout(何が言いたいんだ)」という問いかけが、ステージ全体を震わせる。 音楽と政治が真正面からぶつかり合う、このショウの核心にあるシーン。
裸足の12人が隊列を組み、ステージを行進しながら演奏する。 36年前の名曲が、この形式で鳴ったとき、まったく別の曲になる。 行き先のない道を歌いながら進む姿が、映画全体のテーマを凝縮して示す瞬間。 ここで感情が動かなければ、もう一度最初から観てほしい(当社比)。